【インタビュー】提案力と技術力。梱包設計で物流を支える
商品や部品を輸送する際に欠かせない梱包材。しかし、製品の形状は多種多様です。それらを安全に輸送するためには、既存の梱包材を使用するだけでなく、オーダーメイドで梱包材を一から設計することが必要になるケースもあります。
そこで今回、梱包材の設計を担当している、株式会社トヨコン 包装設計課の白井藤次郎氏に話を伺いました。
梱包仕様や梱包方法をオーダーメイドで設計
製品に合わせて、という考え方はもちろん、顧客が何を求めているのかをヒアリングし、製品の性質と顧客が抱える課題や要望の両方に応える形で、梱包方法などを含めた設計を行っています。
設計する際には、例えば物流業界で多用されているダンボールや発泡スチロールといった梱包資材はもちろん、木材、樹脂、鉄、フィルム、成形トレイなども組み合わせます。時には協力メーカーの材料知識やノウハウも活用しながら、他素材複合型の梱包資材を生み出しています。
商社機能があるからこそできる提案
このように、色々な素材を提案できるというのが株式会社トヨコンの個性だと白井氏は語ります。
「恐らく、ダンボールメーカーであればダンボールを、クッションメーカーであればクッションを提案するというのが一般的ですが、当社の場合は商社機能があるので、選択肢が多いのが特徴です。例えば、鉄のカゴに入れてまとめて運んだほうが安くなりますよとか、もっとクッションを入れると安全性が高まりますよ、とか」
(画像)白井氏の年間対応件数は50件ほど。担当する企業の業種も様々です
異なる業種のアイデアを組み合わせる
白井氏が担当する業種は医療機器や精密機器、自動車部品などの製造業がメインです。ほかにも、アミューズメント関連や食品関係、園芸製品などの資材設計も行います。
担当する業種が多岐に渡るため、園芸の製品で使用する梱包材を工業製品で活用したり、その逆をしたりと、異業種のノウハウやアイデアを展開することが可能です。これは、様々な企業の設計を取り扱っているからこそできることです。
「緩衝設計」と「収納設計」
株式会社トヨコンで取り扱う設計は、大きく分けて2種類あります。ひとつは、通信機器や医療機器といった完成品、つまり出来上がったものに対して設計提案するというもの。製品が壊れないように衝撃を緩和するための緩衝材を設計するという「緩衝設計」です。
もうひとつは、自動車部品などを輸送する際に工場間を行き来する「通い箱」と呼ばれる規定の樹脂トレイを利用し、部品をいかにたくさん収納するかを考えるという「収納設計」。これは、間仕切りを設計したり、クッションなどを使用して部品を支えたりということを提案します。
ここでも、株式会社トヨコンの商社機能が活きると白井氏は話します。「自動車部品にはネジや樹脂パーツ、板金部品などがあります。そこに入る構造体を考えるのですが、輸送中に傷がつかないような素材選定も行う必要があります」。
色々な種類の素材が検討できる商社の調達力を活かした提案と言えます。
「作業効率を改善したい」との声に対応した事例
ここで、改善事例を2件、紹介します。
梱包の標準化による改善
通信機器の部品メーカーである顧客の要望は、「コストを下げたい」という内容でした。しかし、詳しい調査を行ったところ、全国各地に展開している生産拠点が、それぞれ拠点ごとに梱包方法が異なっていることが発覚しました。
そこで、梱包資材と梱包方法を全国で統一することが、お客様の要望に対して最も効果的であると判断しました。一律の仕様に改善することで工場の作業効率はもちろん、教育時間の削減、在庫管理の効率化、同時発注による梱包材のコスト削減など、一石二鳥以上の効果が見込めたからです。
結果、設計だけでなく、梱包方法の統一というオペレーションの改善も行うことになりました。「顧客要望以上の提案ができた案件ですね」と白井氏は言います。
ハイスピードカメラを活用した梱包の改善
(画像)ハイスピードカメラを使用した落下試験
ある顧客から、「製品が出荷時に破損してしまうが、理由がわからない」という相談を受けました。こういった既存の製品の改善設計を行う場合、まずは落下試験を行って、破壊が起きた原因を追究し、そこから製品の特性や、どれくらいの衝撃まで耐えられるかを予測します。
ここで使用するのが、製品を規定の高さから落とす落下試験機。試験機は毎回正確に対象物を落とすことができるので、検証の誤差がなく、よりスピーディーに検証ができます。
落下試験機を使用する際には、スローモーション映像を撮影するハイスピードカメラを併用します。このカメラで、落としたときにクッションの潰れ具合の挙動を確認することができるのです。
白井氏は「落下試験機に加えてハイスピードカメラを導入することで、設計がより緻密に行えるようになりました」と話します。
さらに、ショックマネージャーという外力測定器を用いて、正確に、狙い通り衝撃を緩和できているかの答え合わせをします。これらを使用することによって、設計の精度が格段に向上します。
人に寄り添った設計をしていきたい
(画像)落下シミュレーションを行い設計の精度を上げる
梱包資材は、作業に関わるスタッフがストレスなく梱包、出荷、輸送、開梱を行われるべきだと白井氏は言います。「自社で物流現場を保有しているということもあり、現場で人が本当にやりやすいのはどんな方法なのか、ということを常に意識しています。人が迷わずに梱包でき、よりシンプルに組み立てることができる。そして、梱包材の廃棄がしやすい。人間工学も考慮して作業動線を考え、人に寄り添った設計を心がけています」
これからはロボットに対応した梱包設計が必要になる
時代の流れに伴い、製造現場では省人化機器や自動化設備が導入されてきています。今後は、そういったロボットにも対応した包装を提案する日も近いかもしれない、と白井氏は言います。
「例えば、梱包をした製品を運ぶ場合、人間が運ぶことを想定すると、持ちやすくするために取っ手をつけますよね。ロボットが運搬するようになると、そういった機構は無駄になります。また、梱包時のヒューマンエラーを防ぐ注意喚起のラベルや印刷が廃止され、梱包材の簡素化が狙えるケースもあります」
もちろん、出荷先では、複雑な作業など人の手を介する工程も引き続き行われていくことが想定されます。白井氏は「今後は、ロボットと人間どちらにも対応した梱包材になると考えています。どちらにも対応するためには、よりシンプルで品質の良いものを提案していかなくては」と語りました。
※所属部署は取材当時のものです。