「時間もミスも減らしたいけど、どうしたらいいか分からない」そんな悩みを抱える人は多いのではないでしょうか。特に、紙ベースの作業や手入力が当たり前だった現場では、「効率化」や「仕組み化」の必要性は感じつつも、何から手を付けたらよいのか分からないという声が聞こえてきます。今回お話を伺ったのは、実際に2023年にはRPA(業務自動化)と2025年にはノーコードツールの社内研修を学び、自分の業務だけではなく、現場の業務改善にも挑戦している三田さんをご紹介します。
「特別な人しかできない」と思われがちなデジタル活用を、現場主導で進めてきた体験談です。
RPA(Robotic Process Automation)研修を受けたきっかけは、正直に言うと「断りきれなかったから」でした(笑)。上司から「一緒に研修を受けよう」と声をかけられて、3人で受講する予定が…気づいたら残っていたのは私ひとり。当時は「やるしかないか…」という思いが正直なところでした。
 
でも、心のどこかでは「現場の紙作業を変えたい」という気持ちがあったのも事実です。「変えたい」その気持ちが行動へと変わっていきました。 
2023年に作ったのが「実績登録の自動化」でした。
それまでは、15年間毎日100件ほどの紙書類を手入力しており、両紙面に小さな項目で書かれた内容を目をこらしてミスなく打ち込む作業が6時間以上かかっていました。
 
RPA研修で最初に学んだのは、Excelでボタンを押すというシンプルなものでしたが、そこから自主的に試しているうちに、入力項目のコードと管理番号を紐づける仕組みができれば、自動化できるのではと思い、上司へ相談をし、社内のシステム課へ依頼しました。その結果、これだけでも作業時間は1時間まで短縮となりました。さらにそこから、RPAで自動化することで、最終的には15分で完了する自動フローが完成しました。しかも、ケアレスミスの激減にもつながりました。
 
それまでは、一枚ずつ紙を見て、目も手も痛くて泣けちゃうくらい辛くて…。自動化は絶対に無理と言われていた現場だったけど、でも、それが、実現した。本当に劇的な変化でした。
でも、ツールが使えるようになったからといって、すぐに作業が変わるわけではありません。
何十年も同じやり方を続けてきた現場では、「変えたくない」「変えられない」という固定概念が根付いていて、たとえ時間がかかっても、慣れたやり方をそのまま続けたいという声を感じていました。
だからこそ、「その作業を変えたい」と最初に声をあげることはとても勇気がいることでした。慣れた作業を変えることは簡単ではありません。私が一歩を踏み出せたのは、このチームの課長である上司が後押しをしてくれたから。一人で背負うのではなく、チーム全体で「やってみよう」という空気をつくってくれたことが大きな支えとなりました。
 
2023年にRPA研修を受講したその約2年後の2025年には「ノーコードツール」の研修が始まりました。
このときも、正直なところ「また新しいことを覚えるのか…」という気持ちが強く、最初は少し気が重かったです。ただ、他部署の方も参加していて、しかも講師を務めてくれたのが、RPA研修のときと同じ社内講師の方でした。その方は、私のデジタルに対する得意・不得意をよく理解してくれていたので、「きっとわかってくれているはず」という安心感があり、そのまま受講を決めました。
 
この頃、私の担当業務が変わったこともあり、現場と関わるパソコン作業が増えていました。実際に携わるようになり感じたのが、「現場の手作業をもっと楽にできないか?」でした。ノーコードツールを使って取り組んだのは、「手順書のデジタル化」「再利用資材の入庫表」の2つのデジタル化です。
 
特に再利用資材の入庫表については、紙ベースでの作業が中心で、記入項目が多く、細かい内容が求められていました。その結果、記入ミスや提出漏れが発生しやすく、業務の精度に影響していました。しかし、この入庫表が提出されないと、月末の在庫数が正しく把握できず、在庫管理全体に支障が出てしまいます。
 
このような状況を変えたいという思いから、ノーコードツールを活用したデジタル化の取り組みを開始しました。制作にあたって意識したのは、現場の方が迷わず操作できるシンプルな設計にすることです。必要な項目だけを選択・表示できるように工夫し、約2カ月で本資料をデジタル化しました。
 
ただし、このとき課題になったのが「作成者以外が直せない」という属人化のリスクです。私しか触れないツールでの管理では、担当変更やフォローが難しくなると感じ、次の改善へと動きました。
 
▲ ノーコードツールを使用して入庫管理を作成
ノーコードツールを使った再利用資材の入庫表は便利でしたが、「自分しか修正できない」状態では継続的な改善にはつながりません。そのため、次に選んだのが、より現場になじみがあるExcelとその中でのマクロ機能の活用でした。
 
「誰でも直せる仕組み」を前提に、Excel上で業務フローを作成しました。私はマクロの知識がまったくなかったため、作成時にはChatGPTを活用しました。マクロの記述方法やエラーの修正方法など何度も質問しながら進めました。
 
AIとのやり取りには少し戸惑いもありましたが、「誰かに聞かずにすぐに調べられる」という手軽さがあり、デジタルへのハードルを下げてくれました。 こうして完成したExcelベースのツールは、現場内でも引き継ぎやすく、管理者が変わっても対応できる柔軟な仕組みとして考えています。私が感じたのは、デジタル活用において重要なのは技術そのものではなく、「誰でも触れること」「誰でも修正して現場の運用を続けられること」だということです。
▲ Excel入力フォーム
RPA研修後、ツールを使えるようになっても、「作る時間がない」「業務に追われて手が出せない」という声も多く聞きます。私は通常業務の合間を見つけて、1日2時間ほど作業時間を確保するようにしていました。「忙しいから時間が確保できない」では、いつまで経っても進まないので、意識して時間を区切って取り組んでいました。例えば、1時間だけ集中してデジタルツール作成作業をし、中途半端でも時間になったらまた通常業務に切り替える。といったように、限られた時間でも積み重ねることで形にしました。
 
   
一番伝えたいのは、自動化は便利だけど、完璧じゃないということです。あくまで「人が作ったもの」なので、間違えることもあります。だから私は「最終確認は必ず人がやる」ことを徹底しています。ただ早いだけではダメ。チェックをしなとミスにつながる。自動化を持続するには信じすぎないことだと思います。そこさえ徹底すれば、すごく使えるツールです。
 
           
RPAやノーコードツールを学んで今思うことは、もっと扱える人を増やしたいということです。使える人が増えれば、現場の業務改善や属人化の解消につながります。ですが、社内ではまだ限られた人しかツールに触れた経験がなく、そのままでは「特定の人だけができる環境」が固定化されてしまいます。
多くの人は「新しいことへの挑戦」や「知らないこと」に対して抵抗感があるのは分かりますが、私自身はまずやってみたいという気持ちで一歩を踏み出せました。実際に取り組んでみると、RPAやノーコードツールが動いた時の達成感や業務の変化の実感が得られ、次の挑戦への原動力につながっています。
 
だからこそ、周りの人が最初の一歩を踏み出しやすい環境をつくることが大切です。特に、上司の「一緒にやってみようよ」という声かけが、変えるきっかけになります。少人数でもいいから、受講の機会を増やしていく。それだけでも、「自分にもできそう」「試してみよう」というチームの空気が少しずつ変わると思うんです。
小さなきっかけから大きな変化につながる。それが、現場から始まるデジタル活用の第一歩だと思います。
 
〇 RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
ルールに基づく決められた手順の作業をソフトウェアロボットが自動で繰り返すことが得意な技術です。主に毎日のデータ入力や転記、帳票作成などのルールが明確で定型化された業務に適しており、業務の効率化や人為的ミスの軽減に役立ちます。
〇 ノーコードツール
プログラミングの知識がなくても、業務フローや仕組みを現場のユーザー自身が設計・修正できるツールで、属人化を防いだり改善のスピードアップに貢献します。