携帯電話の通信事業者だけでなく、あらゆる分野で注目されている第5世代移動通信システム。この新たな通信システムは、これまでのものとどのように違うのでしょうか。第5世代移動通信システムによって変わること、その実現に向けた取り組みと課題、それによりどのような技術革新が訪れるのかを考えながら、期待される応用例をご紹介します。
第5世代移動通信システムは、各社が協力して規格化を進めている、次世代の無線通信システムです。「5th Generation」(第5世代)を略して5Gと呼ばれています。この5Gがどのようなものか、開発にいたる背景から見てみましょう。
ガラケーと呼ばれる携帯電話が主流だった2000年代初頭に登場したのが、NTTドコモのFOMAに代表される3Gです。これにより、当時の携帯電話の使用目的として最も重要だった通話品質は飛躍的に安定しました。それだけでなく、メールの送受信をしたり、文字サイトを閲覧したりすることもできるデータ通信を可能とし、「移動通信システム」としてさまざまな可能性が広がったのです。
そこから数年、人々の持つ通信手段としての携帯電話に大きな変革が訪れます。それは、スマートフォンの登場です。これにより携帯電話の使われ方はそれまでと大きく変わりました。データ量の大きい写真をSNSにアップしたり、動画を見たり、ゲームしたりする。そんな大きな通信量が求められるようになったのです。そこで、後に4Gとして扱われるLTE(Long Term Evolution)が登場しました。
こうして3G、4Gと世代を重ね、移動通信システムは発展してきました。そして今、さらに次のステップ、5Gの開発が進んでいるのです。それでは、5Gはどのような要件を満たし、どのような使い道が期待されているのでしょうか。
スマートフォンの爆発的な普及と進化、IoTの実現、情報の価値増大などにより、通信インフラの重要性は高まり続けています。スマートファクトリーやスマートシティといったIoTの進化、車の自動運転による事故防止や物流効率化など、次世代の技術には通信が不可欠です。移動通信のトラフィック量を見ると、2020年には2010年に対し1000倍になるとの予想もあり、新たな通信システムの仕組みが必要とされています。こうした課題について、次のような方向からの解決を目指しているのが5Gなのです。
この5Gを実現するために解決しなければならない課題の一つが、「どの周波数帯を使うか」という問題です。これまでの4Gでは1.7GHzや3.5GHz、700~900MHzなどの周波数が使われていました。今後爆発的に通信量が増えることを考えると、これまで使っていた周波数帯にこれ以上のトラフィック量を詰め込むのは不可能です。
また、送受信する情報を大容量化するためには、周波数が高い電波のほうが向いています。それらが、これまでとは異なる周波数帯を使う理由です。そこで注目されているのが、30GHzを超えるような高周波数帯です。このような高周波数帯は「ミリ波」と呼ばれています。しかし、ミリ波の使用について課題が多いのも現状です。
5Gの開発と普及のための施策について、総務省も本腰を入れて取り組んでいます。その1つとして開催されたのが、「第5世代移動通信システムに関する公開ヒアリング」です。総務省副大臣と国内携帯4社の社長が一同に介しての意見交換と方針の発表が行われました。NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社は2019年に5Gをプレオープンし、楽天モバイルネットワークも2020年から5Gをスタートすることが発表され、多くの注目を集めています。
国内ではこのように5G実現に向けた取り組みが加速していますが、国際標準化に向けた動きも進んでいます。ITU(国際電気通信連合)は、2015年に策定した「IMTビジョン勧告」を元に標準化に取り組み、周波数の共用検討を進めています。2019年10月に開催予定のWRC-19(世界無線通信会議)において、国際移動通信規格用の周波数を特定予定です。
一方で、各国・各地域の標準化団体によって設立された3GPP(3rd Generation Partnership Project)においても、標準化が検討されています。2019年12月を目処に、すべての技術性能要件に対応した5Gの仕様を策定する予定としています。
このように画期的な進化を遂げるとされる第5世代移動通信システムに、通信事業者だけでなく各業界からも期待が寄せられています。5Gにより技術革新が可能になり、産業の発展につながるとして期待される例を見てみましょう。
5Gでは同時に多数の接続が可能です。これを活かし、売り場に並ぶ商品の在庫をIoTによりリアルタイムで把握、システムに送信しAIが在庫変動を予測します。その結果から自動で在庫補充のための発注が行われ、効率化と無人化が実現します。
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などによるシミュレーションにおいても、5Gによる革新が期待されています。送受信データが大容量化・高速化し、さらに遅延のないものになることで、緻密な作業が求められ失敗の許されない医療分野での活用もより信頼性の高いものとなります。このほかに、これまでより精度の高い科学研究や商品開発といった分野での応用も期待されます。
5Gのメリットはドローンに最適ともいえるほど、その活用の幅が広がる可能性を持っています。多数同時接続や信頼性向上といった特徴は、ドローンを使った物流の実現にぐっと近づくと考えられているのです。また、橋梁や高所の点検、被災地の状況把握といった面でも、ドローン活用の幅が広がり精度も向上します。
5Gの特徴である低遅延と高信頼性により期待される用途の1つに、自動運転技術があります。この恩恵が大きいとされるのが、人手不足に悩む物流分野です。自動運転が実現すれば、1台のトラックを人が運転して先頭を走り、後続のトラックは自動運転により隊列を組んで移動することが可能です。
また、さまざまな条件が整備されると完全自動運転も可能になるかもしれません。こういった陸上輸送だけでなく、ロボットによる倉庫管理や敷地内輸送においても、同時に制御できる台数の増加や全自動化といった効果が期待できるでしょう。
次世代の通信システムとして開発の進む第5世代移動通信システム(5G)についてご紹介しました。5Gはスマートフォンでの通信だけでなく、さまざまな分野における情報通信の使われ方を変える可能性を持っています。物流業界にも、倉庫管理や輸送方法の革新など、大きな進化が訪れるかもしれません。
参考: