物流効率化の重要性と「物流総合効率化法」の適用について解説
製造業を始めとする他業界と比べると、物流では自動化やデジタル化がいまだ進んでおらず、人力による作業領域が多く見られます。激しい社会の変化の中で効率化が迫られる今、物流は今後、どのようにあるべきなのでしょうか。今回は物流の効率化が注目される背景と、関連法である「物流総合効率化法」の内容、効率化への取り組みについて紹介します。
物流の効率化が注目される背景
社会的に生産性向上のために効率性を重視する姿勢が問われていますが、物流業界においては特にその重要性が増しています。物流の効率化が注目される理由には、以下のような状況が背景にあります。
- 慢性的な労働力不足
2008年をピークに減少に転じた日本の人口ですが、少子高齢化による労働力の不足が一層進んでいます。特に厳しい労働環境にあるとされるトラックドライバーは、実際に労働時間が全職業平均より約2割長く、若年層の割合が低いという状況です。若い層のなり手の不足から、今後も深刻な労働力不足が継続すると予測されます。
- 物流現場の多頻度小ロット化
日本の小売業における物品の豊富さは、海外からの訪問者を驚かせるほど。スーパーやコンビニエンスストアの品ぞろえは日々多彩さを増しており、それに加えてインターネット通販の急増により、配送ニーズの細分化・要求の高度化が進んでいます。物流現場では小ロットの商品を多頻度で配送しなければならないため、以前よりも業務負担が増える結果となっています。
- 企業のコストマネジメント
社会のインフラとしての役割を長期的に継続していくためにも、物流企業の成長は重要です。安定した企業経営に向け、効率的かつ生産性の高い事業展開が求められます。企業としてのコストマネジメントの観点からも、効率化を加速させる必要があります。
- 通称「2024年問題」への対応
2024年問題とは、働き方改革関連法の施行によってドライバーの労働時間に上限が設定され、各所に影響が生じるという懸念です。働き方改革関連法の適用では「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が実施されます。
具体的には自動⾞運転の業務において、年間の時間外労働の上限が年960時間となり、これに反する事業者には罰則が科せられるようになります。規制の影響により、物流企業の売上・利益の減少、トラックドライバーの収入減少による離職、荷主側の運賃上昇といった問題が生じることが考えられます。
「物流総合効率化法」とは?
労働力不足や多頻度小口輸送といった多くの課題を抱える物流業界に対し、省力化や環境負荷低減を目指す制度である「物流総合効率化法」について解説していきます。
物流総合効率化法の概要
「物流総合効率化法」とは、流通業務の総合化及び効率化の促進を目指し、物流コストの削減や環境負荷の低減などを図る事業に対して認定を行い、支援する内容を定めた法律で2005年(平成17年)に施行されました。2016年(平成28年)の改正では、「2以上の者(法人格が別の者)」が連携して、流通業務の総合化や効率化を図る事業を認定し、支援を行うことが追加されています。
この制度によって国際競争力の強化を図り、消費者の需要の高度化・多様化に伴う貨物の小口化・多頻度化などへの対応を実現すると同時に、環境負荷の低減が図られます。業務の省力化を目指すとともに、支援を受けることで、流通業務に必要な労働力の確保へも働くことが期待されます。
物流総合効率化法による認定の主なメリット
認定された事業者には、以下のようなメリットがあります。
- 補助金・税金の特例対象となる
法人税・固定資産税の特例や運行経費の一部補助などが受けられ、事業経営が経済的にサポートされます。
- 物流の効率化の達成により省人化・コストカットにつながる
優遇制度や支援により施設整備が可能となり、効率化を推進できます。システムやツール、機器類の導入により省人化が進み、人材不足の解消やコストカットにつなげられます。
- 企業イメージの向上
物流総合効率化法の認定を受けられれば、環境に配慮した事業運営をしていることが公認されたということになります。社会貢献への姿勢を示すことができ、企業イメージの向上につながります。
物流総合効率化法による認定では、税金の優遇や補助金による事業のサポート、社会的なイメージの向上などさまざまなメリットが得られます。企業経営全体において、円滑化が図られることが期待できます。
物流総合効率化法の認定要件
物流総合効率化法において事業者として認定を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 2以上の者(法人格が別の者)が連携すること。
- 流通業務(輸送、保管、荷さばき及び流通加工)を一体的に実施すること。
- 輸送網の集約、モーダルシフト、配送の共同化等の輸送の合理化により流通業務を効率化すること。
- 物資の流通に伴う環境への負荷の低減に資するとともに、流通業務の省力化を伴うものであること。
上記に挙げられた基本方針に照らして、適切な事業運営が行われていることや、流通業務を統一的に実施することなどに留意しなければなりません。
また、流通業務総合効率化事業の遂行についての、確実性も求められます。認定を受けるには、効率化達成の客観的な論拠、資金面での見通しや関連法への遵守など、業務遂行の高い可能性が認められる必要があります。
物流効率化への取り組み事例
物流総合効率化法の認定事業と具体的な取り組みについて紹介します。
輸送網集約事業
輸送網集約事業は、各地に点在する物流拠点を集約し輸送をまとめることで、トラックの台数や走行量を削減する取り組みです。大手物流会社の例では物流センターを活用した輸送の効率化を行い、CO2排出量を57%削減、ドライバー運転時間を32%省力化できると見込まれています。
モーダルシフト
モーダルシフトとは、自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することです。長距離輸送を鉄道や船舶で行い、トラックと併用することで効率的な輸送が実現できます。
複数の運送会社とその合弁会社、貨物鉄道会社が参加した事例では、貨物鉄道を利用した複数特積み事業者貨物の混載を行い、東京~九州各地をモーダルシフト化しています。これによりCO2排出量を67%削減、ドライバー運転時間を85%省力化する成果が得られました。
共同輸配送
共同輸配送は異なる複数の事業者が、同一カテゴリの商品を配送先ごとに積み合わせて一括配送することによって、配送効率を向上し各社にかかるコスト負担の軽減を図る取り組みです。配送先にとっても荷受け作業の効率化向上のメリットがあります。運送会社8社による共同事業では、スマートタウン内における共同輸配送を実現し、効率化とコスト減を図っています。これによりCO2排出量100%削減、ドライバー運転時間33%省力化といった効果を確認しています。
上記では比較的大規模な事例を取り上げていますが、中小規模での物流総合効率化法認定事業も多数あります。ポイントとなるのは、2社以上で行い、単独での事業よりも確実に効率性を高める効果が期待されることです。さまざまな事例をもとにして、もっとも自社にマッチする施策を検討、選択をしていく必要があります。
まとめ:国の政策を活用して物流効率化を加速する
物流関連企業にとって、効率化は最優先の課題です。今後労働力の増加が見込めない現状では、自力で事業運営の改善をしていくことはなかなか難しいといえるでしょう。国では2社以上の企業の連携による、効率化向上を推奨しています。認定企業になれば税金や支援金など、さまざまな実利的なメリットがあります。他社との協働を視野に入れながら、物流の効率化向上策を進めていきましょう。
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参考: